いかたけの備忘録

忘れっぽい

企業組織再編の実像 労使関係の最前線

企業組織再編における労働組合の役割について調査した本。調査は企業再編があった会社や労働組合にインタビューしたり、内部資料を出してもらったりして行っている。大体20社ぐらいに調査してる。本の中で詳しく記載しているのは7社あり、具体的な社名は一応伏せられているものの、対外発表した資料の名前や年月日を検索するとおおよそ見当は付く。

第2章のジェイデバイスの事例が大変。分割・吸収合併後の相手先が、中小企業から大きくなり、親会社が外資ということもあってか、労組に非協力的であり、また合併先の労組が経営層の言いなりになっていて交渉もできない。合併先の会社の労使関係は合併前には見えづらいため、合併先にも労組があるから安心、といえないが、如何ともしがたいところがある。

第4章のMHPS(三菱日立パワーシステムズ)のMHI(三菱重工業)から見た内容では、古き良き日本の大企業らしく、労使関係がこの本の中では最も強固と思われる。労使交渉の○○委員会の俎上に乗っている段階では、既にほとんど話がついている状態であるとのことで、オフィシャルな委員会に上るまでにアンオフィシャルな場で相当に議論・検討を重ねる関係である。また、決まった後は組合も会社の方針を社員(組合員)に連絡するなどのも協力する体勢である。本章に限らず、本書の内容はおおむね2015年あたりの調査内容に対してまとめているため、MHPSから日立が手を引いて三菱パワーになり、三菱重工業に戻るまでの再編については記載されていない。

第5章、日本ハムの事例では組織再編に加えて企業の不祥事があり、これを機として労組の組織拡大につなげていった過程が描かれる。企業の不祥事から組織の風通しに問題があると考えた労組が、今まで非組合員であった人も組合員化を進めていった。

第7章のルネサスエレクトロニクスの事例では合併によって強い企業を作ろうとしたものの、あまり上手くいかなかった事についての考察が記載されている。例えば、統合後に生産プロセスを1本化しようとした際に、互いに元の会社のやり方を譲らず、社内の消耗戦のような事態が発生してしまった。そのために社外の技術進歩についていけなくなり、合併したメリットを生かすことができなかった。と言った内容である。

まとめ、著者の基本的なスタンスとしては「企業再編などの組織にとって重大な事態が発生したときにこそ、労使関係の真価が問われる」「信頼に基づく良好な労使関係の元では、労働組合組織は経営資源である」であり、本書もその基本線に沿って記載されている。

本書の特徴は1.企業再編における労使の活動に注視していること、2.個別企業・労組に対してインタビューや内部資料を提供してもらい、掘り下げて議論していること、3.協調的な労使関係をもつ企業を対象としていることである、また、おそらく2021年末のじてんでは、企業再編における労働組合について記載した図書としては最新のものであると思われる(2019年に刊行)。類似の図書としては下記のものがあるが、下記の図書の内容はやや統計的な記載に寄っているのに対し、本書は事例ごとを掘り下げている。