- 本書は「歴史編」と「分析編」から構成されている。
- 「歴史編」で欧米の労働組合の成立過程と日本のそれを概観し、差異を明らかにしている。「歴史編」については読み物として面白く読ませて頂いた。
- 「分析編」で日本に欧米型の労働組合を作る方法を議論しているが。この箇所については、少し分析が物足りない。
「分析編」での著者の主張は概ね下記の点にまとめられると思われる。
- 欧米の産別労組と一般労組を中心とする労働組合が「本当の労働組合」である。
- 日本の労働環境がひどいのは「本当の労働組合」が無いから。
- 日本でも関生など産別の成功例はあり、派遣労働者などを一般労組に組織化することで、「本当の労働組合」を根付かせることができる。
1.、2.の産別労組を日本にも導入すべきという議論はこれまでも出ているもので、特に新規性は無い。この議論を見る際に、日本と欧米以外の国が対象にならないのが不思議に思っている。私も詳細に調査したことはないが、WikipediaによるとITUC(国際労働組合総連合)の加盟団体は161カ国にのぼるそうなので、大雑把にでも良いので誰かまとめて欲しい。
3.について1つ、著書の中で関生(関西生コン支部)の事例を産別の成功例として取り上げているが、この仕組みが広がらなかった理由について分析を深めるべきではないかと思われる。関生の組織ができて半世紀近くが経つが、同様の事例が出てこないことについて分析を加えた方が、有意義な分析になると思われる。
3.についてもう1つ、「日本の下層労働者もユニオンのもとに連帯して社会を変える力になるだろう」との記載についても、既にバブル崩壊から30年を経て未だに組織化にも遠く及んでいない状況について考察すべきではないかと思われる。2000年代であれば上記の記載のような希望的な見方で十分であったかもしれないが、2021年に出版された本で、未だに組織化に失敗し続けているともいえる状況についての分析が無いのは暢気過ぎると思われる。
本書の記載で一番面白かったのは日本型の会社制度として1920年代に社内教育制度を整備し、後に賃金制度と結びつくのであるが、この社内教育制度を整備したきっかけは労働組合を潰そうとしていたのではなく、単に熟練工を育てる仕組みがどこにも(労働組合側にも)なかったので作っただけということ。会社としては単に必要に迫られて作っただけだったのかもしれないが、後々に個別企業の労組に分断する契機になっていた。