いかたけの備忘録

忘れっぽい

読書感想文「大災害の時代」

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日本の大きな災害として大正の関東大震災阪神・淡路大震災東日本大震災を取り上げている。著者が日本国内の政治・歴史学者なので、書き方が丁寧で良い。

本書で、政治的な混乱期に狙ったかのように大災害がやってくるという内容が記載されており、*1今まで知らなかったけれど、関東大震災は組閣の大命が降りてるけど組閣できてない状態でやってきた災害だった。

 

関東大震災では、火災旋風による夥しい死者(大雑把に書くと地震1割、火災9割)、情報暗黒による流言の発生と殺害の発生、後藤新平による創造的復興の提案と縮小。といったことが書かれている。

創造的復興とは復旧:"災害の前の状態に戻すこと"の対比として使われていて、災害を機に大規模な都市計画を実施して、近代都市として生まれ変わらせたり、より安全な街に作り替えたりといった指向をもった復興のこと。

関東大震災後では、後藤新平*2内務大臣が創造的復興を考案したんだけど、予算の都合や縦割行政や政党政治の関係とかで徐々に削られていく。多少は東京市あたりに引き継がれて縮小しながらも完成した部分もあるとのこと。

 

阪神・淡路大震災では著者自身が被災している。なので、ここからは歴史の本であると同時に著者の体験も入っている。また、被災した人や、被災自治体の長、幹部、関係者などへの聞き取りも行っている。

阪神・淡路大震災では、早朝の地震であったこと、風が穏やかであったことから火災旋風は発生せず、建物の倒壊による死者が多くを占めた。また、警察官が制服で街頭に出ることを奨励したり、ラジオを配布しまくったりして、情報暗黒による流言を抑える事になった。このあたりは関東大震災の経験から克服している点となっている。

当時の自衛隊の本格出動が遅れた原因として「社会党自衛隊を嫌っていたので遅れた説」があり、この本を読むまで、なんとなくそれで納得していたけど、そういう話でもなかった。初動が遅れた原因は情報をあげる仕組みにあり、情報が上がってきた後の判断には遅滞なかったとのこと。

 

東日本大震災では、阪神・淡路大震災で課題が露呈した情報の伝達はかなりスムーズになった。このように、大災害の歴史を踏んでいって、日本の社会が今までの課題を克服する歴史を辿っていくのも本書の面白いところであるが、また更に災害の側がそれを上回ってくる。

東日本大震災では津波の被害が甚大であり、また原子力発電所メルトダウンも発生した。災害復旧側の画期としては、トモダチ作戦:米軍の展開があったものの、原発事故の対処を巡ってギクシャクする場面もあった。

著者は東日本大震災の発生時には防衛大学校の校長であり、その後、復興構想会議の議長になる。この本では会議の内幕にあまり踏み込んだ記載はないものの、大変な苦労があったことが行間から読み取れる。

また、関東大震災では頓挫し、阪神・淡路大震災では地方自治体が音頭を取った、創造的復興という方針を、国の方針として明らかにしたことが、画期となっている。

 

 

以上、書かれている内容をかいつまんで紹介しましたが、これ以外の内容が100万倍ぐらい入っているので、皆さんにも読んでほしい。ただ、割と読む人を選びそうな本でもある。でも皆さんにも読んでほしい。

 

*1:私としては地震が人間社会を読み取ってやってくるわけないでしょ。と思いますが…

*2:初代台湾総督とか、ボーイスカウトの創設者だったと記憶している。