1983年以降の電力自由化の歴史を振り返って、いかにして2021年の厳冬期におけるLNG需給逼迫、電力の市場価格高騰につながったかを分析している。著者らの認識では、2021年の厳冬の状況を「敗戦」と認識している。特に2011年以降の小売自由化の拡大に対して厳しい書き方になっている。もっとも、新規参入業者(新電力)に厳しくて、旧電力会社にやさしいのかというとそうではなく、旧電力会社に対して『失敗の本質』の大日本帝国に準えて硬直的パラダイムに陥っていると批判している。
見れば見るほど電力内部の様子と日本軍の駄目さ加減が似ていることがわかる。(p.292)
再エネは貯蔵できないし*1、LNGは東アジアの市場が未成熟*2といった事情があるので、エネルギーのリソースを少ない種類に限定するのはリスキーで、VPPやDRといった顧客側のリソースを活用したり、石油火力の復活を考えたり、容量市場整備したり、原発をどうするかちゃんと考えないと駄目ですよといったことが結論の一つとして記載されている。
安全確保を大前提とした軽水炉活用、水素生産にも使えるHTTR、SMR等、一番イノベーションのポテンシャルがある原子力を無視するのか(p.299)
特定の燃料に過度に依存せず、電源の多様化によるリスク分散を図ることが肝要だ。(p.307)
電力の歴史についての本という観点で見ると、戦前戦後の松永安左エ門あたりを取り上げた本*3はそれなりの数がある一方、本書のように現代史の範囲を扱った本はあまりないので、面白い本が出たなと思う。2011年以降、書店の電力・エネルギーの本棚を見ると暗澹たる気持ちになっていたので、真面目な議論をする本が増えてくれて嬉しい。
2011年の震災から10年経って、ようやくこういう本が読めるようになった感じがある。色んな立場の人から当時を振り返って、今後の方針を議論した本がたくさん出てほしい。原子力についての正面を切った議論はまだまだですが…。